任意後見制度とは

任意後見制度の概要

任意後見制度とは、現在は十分な判断能力を有している人が、将来の判断能力低下等に備え任意後見契約を締結するとういう制度です。
法定後見制度を利用した場合、申立人においてこの人に後見人になってほしいと、「後見人候補者」を候補にし後見開始の申立てをすることは可能ですが、必ずしもその候補者が選任されるとは限りませんし、まして、既に判断能力を欠いている本人の希望を図ることは容易ではありません。
例えば、親に後見人をつける必要が生じたときに、子から後見開始の申立てをした場合、子自身を後見人候補者にして申立をしたとしても、家庭裁判所の判断によって司法書士、弁護士等の専門職後見人が選任されることは実務上多くあります。
これに対し、任意後見制度においては、本人の判断能力が十分なうちに、将来を見据え自分の後見人となってほしい人と契約を締結することにより、本人の希望に沿った人が後見人となります。
任意後見制度は、自己の後見の在りかたを自らの意思で決定するという自己決定権の尊重の理念のもとの制度であり、私的自治の尊重という観点から家庭裁判所の関与の仕方はより間接的な程度にとどめられています。
「自分で選べる後見制度」ということです。

任意後見制度の流れ

任意後見制度の大まかな流れは、➀任意後見契約の締結→②任意後見後見契約の効力発生→③任意後見監督人による監督→④任意後見契約の終了 となります。一つ一つ詳しく見ていきましょう。

➀任意後見契約の締結

(あ)任意後見契約の効力発生時期
任意後見契約は、本人が任意後見人に対し、精神上の障害により判断能力が不十分な状況となった時における自己の生活、療養監護及び財産管理に関する事務の全部又は一部について代理権を付与する委任契約です。
この契約の効力が発生する時期は、任意後見監督人が選任された時からとなります。
任意後見契約の受任者は、監督人の選任前(契約の効力発生前)は、「任意後見受任者」といい、監督人選任後(契約の効力発生後)に「任意後見人」となります。
(い)任意後見契約の方式
任意後見契約は、公正証書によってしなければなりません。
契約締結には、原則として本人と受任者双方が公証役場に赴いて公正証書を作成しますが、これが困難な場合、公証人が自宅、入所施設又は受任者の事務所に赴いて作成することも可能です。
公正証書の作成手数料は、2万円から2万5000円程度です。
(う)委任事務の対象
任意後見契約の委任事務の対象は、「生活」「療養監護」「財産管理」に関する法律行為の全部又は一部です。
・財産管理に関する法律行為(例:預貯金の管理、不動産等重要財産の売買契約や賃貸借契約の締結、遺産分割等)
・生活、療養監護に関する法律行為(例:介護契約、施設入所契約、医療契約等の締結)
任意後見契約締結の際に、これらの法律行為のどこまでを任意後見人に委任するのかを定め、代理権目録に記載する必要があります。
(え)任意後見人の選任
任意後見人の資格には法律上の制限はありません。一般的には、本人の親族・知人・司法書士、弁護士等の法律実務家・社会福祉士等福祉の専門家がなることが多いでしょう。
どのような人を任意後見人としたいかは本人の選択によりますが、任意後見受任者に不正行為その他不適任な事由があるときは、任意後見監督人選任の審判の段階で選任の申立てが却下され、任意後見契約が効力を生じないことになります。
任意後見受任者の不適任な事由とは次のとおりです。
・未成年者
・家庭裁判所で免ぜられた法定代理人
・破産者
・行方不明者
・本人に対し、訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
・不正行為、著しい不行跡、その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
なお、任意後見監督人選任の申立てにおいて、任意後見受任者に不適任な事由があったとしても、家庭裁判所は任意後見監督人選任の申立てを却下するのみであり、代わりとなる任意後見人を選ぶことはありません
せっかく締結した任意後見契約が無駄に終わらないためにも、任意後見受任者の選任には細心の注意を払うべきでしょう。
(お)任意後見人の報酬
任意後見人の報酬は、任意後見契約において定められます。

②任意後見契約の効力発生(任意後見監督人の選任)

(あ)任意後見監督人の選任申立て
任意後見契約締結後、本人が精神上の障害により判断能力が不十分な状況になったときは、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者は家庭裁判所に対し、任意後見監督人選任の申立てをすることができます。
家庭裁判所は、この申立てにより、判断能力が不十分な状況にあると認めるときは、任意後見人に不適任事由がある場合を除き、任意後見監督人を選任し任意後見契約の効力を発生させます。
効力発生により、初めて任意後見受任者が任意後見人として契約によって定められた委任事務について代理権を行使することができるようになります。
(い)本人の同意
自己決定権尊重の立場から、任意後見監督人の選任には、本人の申立てまたは本人の同意が必要とされています。しかし、本人が意思表示をすることができないときは本人の同意は不要です。
(う)任意後見監督人の選任
任意後見監督人の資格には、法律上の制限はありません。司法書士、弁護士等の法律専門職等が想定されていますが、本人の知人、親族が選任される余地も当然あります。但し次に該当する者は任意後見監督人になれません。
・任意後見人の配偶者
・任意後見人の直系血族
・任意後見人の兄弟姉妹
・未成年者
・家庭裁判所で免ぜられた法定代理人
・破産者
・行方不明者
・本人に対し、訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族

任意後見監督人の選任に際しては、家庭裁判所は必ず本人の意見を考慮するものとされていますので、任意後見契約を締結する際、任意後見監督人の候補者を公正証書に書いておけば、客観的に不適合と認められる事情がない限り本人の希望に沿った任意後見監督人が選任されるでしょう。

③任意後見監督人による監督

(あ)任意後見監督人の職務は主に任意後見人の監督です。次の職務を行います。
・任意後見人の事務を監督する。
・任意後見人の事務に関し、家庭裁判所に定期報告をする。
・急迫の事情がある場合に、任意後見人の代理権の範囲で必要な処分をする。
・任意後見人と本人の利益が相反する場合に本人について代理する。
(い)家庭裁判所による監督
任意後見は、法定後見とは異なり、家庭裁判所による監督は間接的なものとなります。
家庭裁判所は任意後見監督人からの定期報告によって、間接的に監督することを主とし、必要があるときは家庭裁判所は任意後見監督人に対し監督の方法等について具体的な指示を行います。
(う)任意後見監督人の報酬
家庭裁判所は、本人の資力その他の事情を考慮し、本人の財産の中から相当な報酬を任意後見人に与えることができます。
つまり、任意後見監督人の報酬は家庭裁判所が決定します。

④任意後見契約の終了

任意後見契約の終了事由は次のとおりです。
(あ)契約の解除
任意後見契約は委任契約ですから契約の解除によって終了します。通常の委任契約であれば各当事者がいつでも自由に解除をすることができるのが原則ですが、任意後見契約については次のとおり制限が設けられています。
・任意後見監督人選任前(任意後見契約の効力発生前)
いつでも任意後見契約を解除できる。※但し、公証人の認証を受けた書面によって解除する必要があります。
・任意後見監督人選任後(任意後見契約の効力発生後)
本人又は任意後見人は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除することができます。
これは、任意後見人からの解除を自由に認めると無責任な辞任を容認することになるし、又、本人からの解除を自由に認めることによって、本人が判断を誤ることによりかえって本人保護に欠ける結果となるおそれがあるためです。
(い)任意後見人の解任
家庭裁判所は、任意後見人に不正行為、著しい不行跡その他任務に適しない事由があると、本人、親族、検察官、任意後見監督人の請求によって任意後見人を解任することができます。あくまでも、任意後見監督人等の請求によって解任することができるのであって、たとえ任意後見人に不正行為等があっても家庭裁判所が職権で任意後見人を解任することはできません。
任意後見人が解任されると任意後見契約は終了します。
(う)法定後見の開始
任意後見監督人が選任された後(契約が効力を生じた後)法定後見(後見・保佐・補助)の開始の審判がされたときは、任意後見人と法定後見人の権限の重複を防止するため、任意後見契約は当然に終了します。
(え)本人又は任意後見人の死亡又は破産
一般的な委任契約と同様に、本人又は任意後見人の死亡又は破産によって任意後見契約は終了します。
また任意後見人が後見開始の審判を受けたときも任意後見契約は終了します。

最後に

近年、日本の社会は超高齢化が加速し、高齢者の数は3500万人を超えています。その中でも、認知症患者の数は2012年での統計では約460万人であり、2025年では高齢者のうち五人に一人の割合の
約20%(700万人程)が認知症になるという推計もあります。

このことからも分かるよう、「自分は大丈夫」ではなく「自分もなり得る」という意識をもって、将来への備えが大事になってくるのではないでしょうか?
将来、自分の判断能力が低下したとき、全く知らない人ではなく、自分の信頼する人に自分の生活、財産を守ってもらい、自分のライフプランを尊重した生活を送っていく、それを実現できるのが任意後見制度なの
です。
最近物忘れが多くなった等お心当たりのある人は、一度、任意後見制度について検討してみるのも良いかもしれません。

 

広島市南区の相続・遺言・成年後見のお悩みは加納司法書士事務所へお気軽にご相談下さい。

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